科学と論理B

第4回

イントロダクション

環境倫理学の三つの論点

応用倫理学の中でも主要な一分野として「環境倫理学」がある。加藤尚武は環境倫理学の三つの基本主張を整理した(2020[1991])。以下の三つである。

  1. 自然の生存権の問題
  2. 世代間倫理の問題
  3. 地球全体主義(有限の地球という問題)

自然の生存権の問題

土地倫理

アルド・レオポルドが、1949年に刊行したエッセイ集である『砂土地方の四季:スケッチところどころ』(ASandCounty Almanac: And Sketches Here and There. 邦題は『野生のうたが聞こえる』)において提唱したとされる「土地倫理(land ethic)」という考え方を取り上げる。

レオポルドの主張は大きく以下の三点にまとめられる。

  1. 人間は他の動物、植物、岩、土壌、水を含む統合された**「土地」という共同体**の関わりの中で存在している。
  2. 人間という種の役割は、この共同体の「征服者」ではなく、「特別ではないメンバー、一市民」である。
  3. したがって、私たちには、土地という共同体が長期にわたって「健康的であること」を、つまり「自己再生能力」を保つように、一貫して行動する道徳的な責任がある。
1. 人間は他の動物、植物、岩、土壌、水を含む統合された「土地」という共同体の関わりの中で存在している
2. 人間という種の役割は、この共同体の「征服者」ではなく、「特別ではないメンバー、一市民」である
3. したがって、私たちには、土地という共同体が長期にわたって「健康的であること」を、つまり「自己再生能力」を保つように、一貫して行動する道徳的な責任がある

土地倫理とマルチスピーシーズ

自然の権利訴訟

ここからは、自然物を原告として行われた「自然の権利」訴訟を見る。

自然保護活動の3種類

  1. 保護(protection)
    • 開発のような人為的改変を食い止める
  2. 保存(preservation)
    • 現状のまま何も手を加えない
  3. 保全(conservation)
    • 本来のその土地の生態系の望ましい姿を維持するために人が適宜手を加える

アメリカでの実践例

日本で最初の自然の権利訴訟:アマミノクロウサギ

日本で第二の自然の権利訴訟:オオヒシクイ

日本で第三の自然の権利訴訟:諫早湾など

日本で第四以降の自然の権利訴訟

日本の自然の権利訴訟

奄美訴訟に先立つ日本の自然保護訴訟

裁判の利点と限界

世代間倫理の問題

世代間の公平性、世代間正義、世代間倫理

通常と少し異なる意味での「世代」

負の遺産の一方向性

配慮の一方向性

世代間の公平性

非同一性問題

非同一性問題への応答

放射性廃棄物と世代間倫理

処分方法のディレンマ

  1. 再処理に伴って発生する廃液をガラス原料と混ぜ合わせ、キャニスターと呼ばれる約5mm厚のステンレス製の容器の中で固化する。固化した当初は放射線量や発熱量が大きいため、これらの減少を図るために、30~50年間地上の施設で貯蔵する。
  2. ガラス固化体を、オーバーバックと呼ばれる金属容器(直径約80cm、高さ約170cm、壁厚約19cm、重さ6トン)に入れる。これにより、地層に埋設した後、最低でも1,000年間は地下水がガラス固化体に接触するのを防ぐと言われる。
  3. 放射性物質の移動を遅らせるために、天然の粘土(ベントナイト)と砂を混ぜてできた緩衝材ブロック(厚さ70cm)でオーバーバックの周囲を覆う。
  4. これを地下数百メートルにある岩盤に埋設する。地下深部では地下水の動きが極めて遅く、放射性物質が岩盤にしみ込んだり、吸着されたりして、その移動はさらに遅くなるとされ、これにより人工バリアが腐食・破損し、放射性物質が漏洩して地表へ到達したとしても、その頃には放射性物質の放射線量は人間の生活に影響のないレベルになると考えられている。

不確実性・漸進的最適化・持続的熟議

超長期的リスクに対処するための世代間倫理

  1. 第一原理:リスクは各世代で公正に分配されなければならない。この原理は、それが十全に遵守されえない場合でも、目指すべき理念として堅持されなければならない。
  2. 第二原理:
    • 第一原理を十全な形で遵守できない場合に限り、時間的に持続する共同体へのリスクを最小化する最適な方法が追求されなければならない(最適化原理)。
    • 最適化のプロセスならびにそこで選択される対処方法は、強力な確証がない限り、将来の意思決定をできるだけ制約せず、可逆性および修正可能性をできるだけ担保したものでなければならない(漸進性原理)。

理念転換の条件

まとめ

イントロダクション

自然の生存権の問題

土地倫理

世代間倫理の問題